近年、ミトコンドリアDNA(mtDNA)突然変異がミトコンドリア病と総称される疾患の原因となっているだけでなく、糖尿病やパーキンソン病、老化といった疾患や現象にも関与しているという報告がなされている。しかしmtDNA突然変異と疾患との直接の因果関係については不明、瞭な点が多く、その理解のためにはモデル動物を使用した個体レベルでの観察が必要である。研究代表者は先行研究において病原性突然変異型mtDNAを持つミトコンドリア病モデルマウス受精卵の核を、正常マウス卵に核移植することによってミトコンドリア病発症を抑制することに成功している。本年度の研究においては、核移植の際に持ち込まれる微量の病原性突然変異型mtDNAの複製を抑制し、完全に排除することを目的とし、細胞内で複製が優位に行われるMus musculus molossinus mtDNAをMus musculus domesticus由来である病原性突然変異型mtDNAと混在させた。 ミトコンドリア病モデルマウス受精卵の核移植レシピエントとしてM.m.molossinus由来mtDNAを有するマウス卵を使用し、10個体の産仔を得た。これらのマウスを離乳後、尾生研試料において病原性突然変異型mtDNAの割合を測定したところ、M.m.domesticus mtDNAをレシピエントとして用いた先行研究と同程度の病原性突然変異型mtDNAを有していた。つまり、当初期待されていたM.m.molossinus mtDNAによる病原性突然変異型mtDNAの駆逐は、胚発生過程では行われなかったと考えられる。現在、これらの出生個体については加齢による病原性突然変異型血tDNAの増減を観察するとともに、メス個体については正常オス個体と交配させることにより、次世代への病原性突然変異型mtDNAの伝達パターンを明らかにしていく予定である。
|