トランス・スプライシングとアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用したDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対する新たな遺伝子治療法の開発を試みた。本研究の目的は、スプライシング過程においてAAVベクターからの外来性pre-trans-splicing RNAと内因性ジストロフィンpre-mRNAの間でトランス・スプライシングを強制誘導し、変異を持つエクソンを正常エクソンに置換することにより、ジストロフィン蛋白質の発現を正常な状態に回復させることである。そこで、DMDモデルであるmdxマウスの遺伝子異常(exon 23にナンセンス変異を持つ)を修正するために、ジストロフィンpre-mRNAのintron 22-23を特異的にターゲティングするpre-trans-splicing RNA分子を構築し、これを転写する組換えAAVベクター(rAAV)を作製した。本rAAVベクターをマウス骨格筋へ導入し、内因性のジストロフィンpre-mRNAに対するトランス・スプライシングについてRT-PCR及びnested PCRにより解析した結果、効率は低いが目的のエクソン23の前後でトランス・スプライシングを誘導可能であることが分かった。これは本ストラテジーがDMD治療へ適用できる可能性を示唆するものである。一方で、pre-trans-splicing RNAや発現ユニットの構造(プロモーター、スプライシング・ユニット、ポリAシグナル、ターゲット配列など)がトランス・スプライシングの効率に大きく影響を与えることも明らかになった。そのため今後の課題として、トランス・スプライシング効率を改善するためにコンストラクトの改良を進める必要がある。
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