Nerve growth factor(NGF)は神経系の種々の細胞から分泌されるサイトカインであり、膵癌組織でNGFとその受容体TrkAの高発現が見られ、NGF-TrkA経路と神経周囲浸潤の関連性が推定されている。膵癌・大腸癌細胞株を用いた系では、ルシフェラーゼ活性として測定したTrkAのプロモータ活性と定常状態のmRNA発現量には関連が見られず、エピジェネティックな制御機構が示唆された。DNAメチル化の状態を調べるバイスルファイト・マッピングでは、TrkA遺伝子プロモータの転写開始部位と翻訳開始部位の間(5'側非翻訳領域)にある、AP-1結合配列類似部位(TGAGCGA)周囲のメチル化蓄積と定常状態のmRNA発現増加には相関関係が見られた。さらに、メチル化の多い細胞株に5-aza-dCにて脱メチル化処理を行うと、定常状態のmRNA発現は減少した。一方、メチル化酵素SssI処理を行うと、各種細胞株で転写活性の上昇が見られた。以上より、メチル化による転写活性亢進が示唆された。また、AP-1結合配列類似部位(TGAGCGA)に関するゲルシフトアッセイにて蛋白-DNA複合体が形成され、複合体は主に抗c-jun抗体にてスーパーシフト、抗junD抗体、抗fra2抗体にて部分的にブロックシフトを受けた。DNAにメチル化導入したところ、AP-1類似配列(TGAGCGA)周囲のメチル化により蛋白-DNA複合体形成が阻害され、AP-1の機能を阻害すると考えられた。
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