癌抑制遺伝子PTENはPI3K/Aktシグナル伝達路を負に制御する脂質ホスファターゼであり、様々なヒト腫瘍においてその遺伝子変異が報告されている。一方、ヒト腫瘍組織においてはPTENの遺伝子変異を伴わず、そのタンパク質発現が減弱-消失している例が数多く報告されている。この事は、PTENの発現や活性、タンパク質の安定性が腫瘍形成の抑制に重要である事を示している。最近、PTENと相互作用する分子の一つとしてGLTSCR2が同定された。GLTSCR2はPTENタンパク質と結合し、それを安定化させる事から、GLTSCR2はPTENを標的とする新規癌抑制遺伝子であると考えられた。申請者はGLTSCR2遺伝子の機能や生理的な役割について解明する目的で研究に着手した。 申請者はGLTSCR2欠損マウスを既に作製しており、その欠損マウスは胎生早期に致死であったことから、GLTSCR2は発生に必須の分子であることを見出している。以上を背景に、平成18年度は以下について検討を行った。 1.GLTSCR2遺伝子の癌抑制遺伝子としての機能解析 GLTSCR2ヘテロ欠損を用いてその発癌性について検討した。DMBA/TPAによる化学発癌誘発実験を行った結果、GLTSCR2ヘテロ欠損マウスは、予想に反して乳頭腫の形成に耐性を示した。以上の結果から、GLTSCR2にはPTEN以外の分子標的が存在する事が示唆された。 2.GLTSCR2遺伝子欠損ES細胞の樹立 GLTSCR2欠損ES細胞を樹立した結果、GLTSCR2の欠損はG_1期での細胞周期停止とアポトーシスの亢進を引き起こす事を見出した。これらの過程は、p19^<Arf>/p53経路に依存している事を明らかとした。さらに、GLTSCR2の欠損はrRNAのプロセッシングを障害する事を突き止めた。現在、その詳細な分子メカニズムについて検討を行っている。
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