癌抑制遺伝子PTENはPI3K/Aktシグナル伝達路を負に制御する脂質ホスファターゼであり、様々なヒト腫瘍においてその遺伝子変異が報告されている。一方、ヒト腫瘍組織においてはPTENの遺伝子変異を伴わず、そのタンパク質発現が減弱〜消失している例が数多く報告されている。この事は、PTENの発現や活性、タンパク質の安定性が腫瘍形成の抑制に重要である事を示している。最近、PTENと相互作用する分子の一つとしてGLTSCR2が同定された。GLTSCR2はPTENタンパク質と結合・安定化させる事から、GLTSCR2はPTENを標的とする新規癌抑制遺伝子であると考えられた。申請者はGLTSCR2遺伝子の機能や生理的な役割について解明する目的で研究に着手した。 GLTSCR2欠損マウスを作製・解析した結果、その欠損マウスは胎生早期に致死であったことから、GLTSCR2は発生に必須の分子であることを見出した。また、GLTSCR2ヘテロ欠損マウスは、予想に反して、DMBA/TPA誘発による乳頭腫の形成に耐性を示した。以上の結果から、GLTSCR2にはPTEN以外の分子標的が存在する事が示唆された。そこで、GLTSCR2欠損ES細胞を樹立し、解析を行った。GLTSCR2欠損ES細胞は、G_1期での細胞周期停止とアポトーシスの亢進を引き起こす事を見出した。これらの過程は、p19^<Arf>/p53経路に依存している事を明らかとした。さらに、GLTSCR2の欠損はrRNAのプロセッシングを障害する事を突き止めた。その詳細な分子メカニズムについて検討を行ったところ、GLTSCR2はrRNAのプロセッシングに関与する多くの分子種と結合する事を確かめた。以上の事から、GLTSCR2はrRNAのプロセッシング関連分子との相互作用により、その課程を制御している事が推測された。以上の内容について、現在投稿準備中である。
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