昨年度の実験結果より、神経発達障害仮説に基づいた統合失調症の動物モデルである幼若期両側腹側海馬(neonatal ventral hippocampus: NVH)障害ラットの異常行動(特に認知障害)は、思春期後(生後56日目以降)に前頭前皮質のセロトニン(5-HT)_<2A>受容体の機能亢進が関与することを行動薬理学的に証明した。従って本年度は行動薬理学的に証明した5-HT_<2A>受容体の機能亢進をオートラジオグラフィー(神経化学的手法)により様々な脳領域における5-HT_<2A>受容体及びセロトニン取り込み(SERT)結合部位の変化を測定した。その結果、脳内5-HT_<2A>受容体結合部位は思春期前においてコントロール群及びNVH障害群間で有意な差は認められなかった。思春期後においては、コントロール群と比較しNVH障害群の前頭前皮質、扁桃体において5-HT_<2A>受容体結合部位は有意に増加した。脳内SERT結合部位に関しては思春期前後においてコントロール群と比較し、NVH障害群の前頭前皮質、線条体及び背側海馬で有意に増加していた。以上のことによりNVH障害ラットにおける認知障害の発現には特に前頭前皮質における5-HT神経機能亢進の可能性が神経化学的な手法によっても証明された。したがって、今後の抗精神病薬開発には抗5-HT作用が必要であることが示唆された。また、NVH障害ラットの5-HT神経機能亢進の原因を究明することは、統合失調症の危険因子を同定する可能性があるため今後検討していく予定である。
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