Tsc2-DCT55(Tsc2遺伝子産物のC末55アミノ酸を欠失させたcDNAを発現する導入遺伝子(Tg))をTgにもつ変異ホモ接合体のEkerラットでは生後20週の時点で、野生型に比べて、メスでは優位に体重の増加が認められた。しかしながらオスでは有意な差は認められなかった。また上記の個体における血清学的・生化学的検査を経時的に行ったが、脂質代謝・糖代謝系において、明らかな異常値は見出されなかった。 Tsc2が関与するAkt/mTOR/S6 kinaseのシグナル伝達経路の最下流に位置する分子の一つであるribosomal S6は、Tsc2が欠失するとリン酸化が亢進すること見出されている。このリン酸化の亢進を指標に、胎生致死がもたらされる胎生11.5-13.5日のあいだで、胎児組織を用いて免疫染色を行ったが、野生型の胎児と比べて優位な染色態度は見出されなかった。 またエネルギー代謝などを司る視床下部におけるAMP-activated protein kinase(AMPK)のリン酸化の状態を検討した。前述の個体での視床下部領域のタンパクを抽出し、ウェスタンブロットを行った。結果、野生型に比べて変異ホモ接合体のEkerラットではAMPKの軽度のリン酸化の亢進が認められた。 TSC2-RGH(C末約1/5をコードする導入遺伝子(Tg))およびTsc2遺伝子のその領域を欠失させたTgであるTSC2-DRGをそれぞれTgにもつトランスジェニックEkerラットの胎生期での状態を検討した。Tsc2-RGH、Tsc2-DRGのいずれのかのTgをもつ胎児では、いずれも胎生期での生存の遷延性は見られなかった。発癌抑制効果のみられたTsc2-RGHをもつ個体でも変異ホモ接合体の胎生期で遷延効果が見出されなかったことから、発癌抑制効果のみられた領域以外も個体発生に重要な役割を果たしている可能性が考えられた。
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