膵臓癌のほとんどは膵管由来の上皮性悪性腫瘍(以下膵癌)であり、早期発見の難しさに加え、全般的な特徴である転移・浸潤能の高さから、主ながんの中で最も予後を悪くしている。本研究の目的は、網羅的遺伝子発現解析によって膵癌の悪性化に関与する因子を検索し、さらに機能解析を行うことである。その候補分子としてアクチン結合タンパクのひとつであるCAP1(adenylate cyclase-associated protein 1)に焦点を絞り、病理学的および細胞生物学的解析を行うこととした。 免疫組織染色により膵癌臨床検体でのCAP1発現を調べたところ、低分化な癌細胞ほど強い陽性を示すなど、症例ごとに発現量(CAP1陽性率)に差はあるものの、73症例全てでCAP1の高発現を認めた。統計解析の結果、CAP1の陽性率と神経周囲浸潤およびリンパ節転移とは相関が見られ、またCAP1陽性率の高い患者の予後は低い患者と比べて悪かった。膵癌由来培養細胞株の蛍光免疫細胞染色により、CAP1は細胞質内に存在し、膜状仮足先端部でアクチンと共局在していることが示された。 RNA干渉法(RNAi)により膵癌由来細胞株のCAP1発現を阻害したところ、細胞増殖能に差異は見られなかったものの、膜状仮足の形成(特に血清刺激に対する応答としての)が減じられ、さらに運動能の低下が認められた。 これらのことから、CAP1の過剰発現は障癌症例全般で見られる特徴であり、細胞運動増進に関与するCAP1が過剰発現することにより、癌細胞の浸潤・転移が促進され、その結果膵癌患者の予後を悪化させていることが示唆される。
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