研究概要 |
胎児性癌細胞株はレチノイン酸や熱などの分化誘導処理により,神経や筋,上皮,ならびに栄養膜への多分化を示す.Mcl-1遺伝子はその分化初期において有意に誘導される遺伝子として単離され,その後の解析からBcl-2ファミリーに属するアポトーシス抑制遺伝子の一つであることが判明した.申請者らは,初期胚から胎児期,胎盤形成過程におけるMcl-1遺伝子の重要性を明らかにし,さらに同遺伝子発現と胚細胞の腫瘍化ならびに分化との関連性を報告してきた(Sano M et al.,Research on Testicular Cancer, in press).一方,Mcl-1トランスジェニックマウスでは膵ラ氏島の過形成ならびに一部にインスリノーマが見られ,小児nesidioblastosisではインスリン産生細胞にほぼ一致してMcl-1の発現を認めることから,同遺伝子がβ細胞の発生や分化に密接に関わっている可能性が示唆される. 今回,β細胞の前駆細胞と考えられているラットAR42J細胞を肝細胞増殖因子(HGF)とアクチビンによりin vitroの系でβ細胞へ分化誘導させ,その分化過程におけるインスリンとMcl-1の発現を経時的に解析した.インスリンIは分化誘導後比較的早期に発現が誘導されたのに対し,インスリンIIは3日目から強く誘導された.一方,Mcl-1は分化誘導前においても既に発現を認め,分化前後においても有意な発現の変化は認められなかった.AR42J細胞におけるMcl-1遺伝子の発現パターンは,Pdx-1,Nkx6.1,Nkx2.2といったβ細胞の分化に重要な転写因子の発現と類似しており,Mcl-1遺伝子は膵幹細胞から前駆細胞にかけての分化に関わっている可能性が示唆された.
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