研究概要 |
小児膵ラ氏島症(nesidioblastosis)は,小児膵臓におけるインスリン産生細胞が異常増殖することにより,高インスリン性低血糖症を呈する疾患である.報告者らが作製したアポトーシス抑制遺伝子Mcl-1のトランスジェニックマウスにおいては,膵ラ氏島の過形成や,一部に腺腫(インスリノーマ)が認められることから,インスリン細胞の増殖あるいは発生に同遺伝子発現が密接に関わっていることが示唆される.そこで,小児nesidioblastosisにおける異常インスリン産生細胞とMcl-1遺伝子発現との関連性を詳細に検討した.その結果,興味深いことに,Mcl-1遺伝子の発現は異常増殖するインスリン産生細胞にほぼ一致しており,その他のホルモンであるグルカゴンやソマトスタチン産生細胞の分布とは明らかに異なっていた(Sano M, Vichows Archiv, in press).また,正常ラ氏島の新生は膵管から生じることが知られているが,nesidioblastosis症例においても,ラ氏島新生を示唆するductulo-insular proliferationにおいて,Mcl-1遺伝子の発現を認めた.一方,細胞増殖を示すMIB-1は予想に反して,Mcl-1の発現細胞と一致しなかった.すなわち,小児nesidioblastosisにおけるMcl-1遺伝子の発現は,インスリン産生細胞の増殖よりも,むしろ新たな発生や分化に深く関わっている可能性が示唆された.
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