研究概要 |
Mcl-1遺伝子はBcl-2ファミリーに属するアポトーシス抑制遺伝子の一つであり, 発生過程における細胞の分化成熟, 成人期におけるホメオスターシスのみならず, 腫瘍発生にも密接に関与している. 一方, Mcl-1トランスジェニックマウスにおいては, 膵ラ氏島の過形成ならびに一部にインスリノーマが認められ, さらに, 高インスリン性低血糖症を呈する小児膵ラ氏島症における解析から, Mcl-1がインスリン産生細胞の分化成熟に関わっている可能性が推測されている. そこで, 今回, われわれはインスリン産生細胞への分化過程におけるBcl-2ファミリー遺伝子の発現動態を解析した. インスリン細胞の前駆モデルであるAR42J細胞に対して, 肝細胞増殖因子(HGF)とアクチビンを添加してインスリン産生細胞へ分化誘導させたところ, アポトーシス抑制分子であるMcl-1, Bcl-2, Bcl-xLの発現はほとんど変化が認められなかったのに対し, アポトーシス促進分子であるBidとBaxは発現が抑制され, 逆に, Baxの発現は上昇した. 分化誘導後, アポトーシス細胞が有意に増加することから, インスリン産生細胞への分化過程における生存には, BidとBaxの発現低下が重要と考えられる. さらに, インスリン産生細胞における糖負荷刺激に対するBcl-2ファミリー遺伝子群の発言動態を解析した. AR42J細胞をインスリン産生細胞へ分化誘導させた後, 高濃度の糖負荷を行ったところ, Bcl-2の発現量に変化は認められなかったものの, Bcl-xLは低下し, 逆にMcl-1は上昇した. 一方, アポトーシス促進分子BadとBid, Baxの発現は上昇した. これからの結果は, 単離ラ氏島においても, 同様の結果が認められた. したがって, 糖負荷に対するインスリン産生細胞の生存には, Mcl-1が重要な役割を担っていることが示唆された.
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