エキノコックス幼虫システインプロテアーゼを標的分子とする化学療法剤の開発のために必須である、その一次構造を決定し、性状の解析を試みた。本年度は、2種のシステインプロテアーゼ(EmCLP1およびEmCLP2)のエキノコックス幼虫での発現および酵素学的性状に関する解析を行った。 1)システインプロテアーゼに対する特異抗体の調製 EmCLP1およびEmCLP2の酵素ドメインを大腸菌により発現し、それらを抗原として用いることにより、それぞれに特異的なモノクローナル抗体を調製した。 2)エキノコックス幼虫での発現解析 それぞれのモノクローナル抗体を用いて、エキノコックス幼虫抽出抗原および分泌・排泄(ES)液に対してイムノブロット解析を行った。その結果、抗EmCLP1抗体は抽出抗原では25.8kDa、ES抗原では25.8および26.1kDaの蛋白質を、抗EmCLP2抗体は抽出抗原では25.8kDa、ES抗原では27.7および31.1kDaの蛋白質を認識した。これらの結果より、両酵素が蛋白質レベルで発現していること、また、一部が分泌されていることが明らかとなった。興味深いことに、TritonX-114相分離法により膜蛋白質画分を調製しイムノブロット解析をしたところ、EmCLP2が検出され、その一部が寄生虫細胞膜に結合している可能性が示唆された。次に、エキノコックス幼虫での局在を解析するために、免疫組織染色を行った。その結果、両酵素とも胚層、繁殖胞および原頭節で発現していることが確認できた。EmCLP1に関しては、原頭節での発現は確認できたが、その染色性は他の部位に比してかなり弱いものであった。 3)活性型EmCLP1およびEmCLP2の発現および酵素性状 活性型酵素は酵母(Saccharomyces cerevisiae)を用いて発現させ、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。その活性型酵素を用いて、ヒトIgG、ウシ血清アルブミン、I型およびIV型コラーゲンおよびフィブロネクチンに対する活性を調べた結果、両酵素ともにそれらを分解する活性を有していた。
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