T.cruziが感染すると宿主細胞のアポトーシス抑制因子cFLIPを大量に蓄積させ、アポトーシスを強く抑制する。この現象は本原虫の宿主生体内における生残り、したがって病原性からみても非常に重要である。我々はT.cruzi感染細胞におけるcFLIPのユビキチン(Ub)化が非感染細胞と比較し著しく抑制されていることを見出した。Ub化はタンパク質の分解シグナルになることから、T.cruziはcFLIPタンパク質の分解を抑制していることが明らかとなった。cFLIPのE3(Ubライゲース)がItchであるという最近の報告を受け、Itchタンパク質の発現量をT.cruzi感染細胞と非感染細胞で比較したが、差は認められなかった。一方、感染細胞においてはcFLIPとItchの分子相互作用が阻害されていることが明らかとなった。次に、タンパク質の複合体構造を維持したまま分離が可能なBlueNativePAGE(BN-PAGE)により、感染細胞におけるcFLIPを含む複合体の解析をおこなった。cFLIPを大量発現させた非感染、感染HeLa細胞のライセートをBN-PAGE後、特異抗体を用いてウエスタンブロット法をおこなったところ、非感染細胞では約150kDaのメインバンドおよび分子量がより大きいスメアが検出された。この複合体はその大きさからItch、E2(Ub結合酵素)、cFLIPあるいはポリUb化されたcFLIP含むと推定された。一方、感染細胞では本複合体の形成は著しく阻害されており、このことがcFLIP蓄積の原因であると考えられる。cFLIPとE3の複合体形成を阻害し、cFLIPを蓄積させるという分子機構はガン細胞や他の病原体感染細胞では報告がなく、T.cruziは宿主のアポトーシスの抑制のために新奇な分子(機構)を利用している可能性が高い。
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