胸腺はT細胞の分化と選択に必須の中枢リンパ組織であり、突起を伸ばした胸腺上皮細胞がT細胞分化の制御に関わるとともにその組織構築と維持に重要な役割を果たしている。申請者はこれまでに、一部の胸腺髄質上皮細胞がクローディン(Cld)をはじめとしたタイトジャンクション(TJ)構成膜タンパク質を発現すること、さらにこのCld陽性細胞が末梢自己抗原に対する免疫寛容に関わるautoimmune regulator(Aire)遺伝子を発現する特殊な髄質上皮細胞群であることを明らかにしてきた。さらに、発生初期に重層上皮構造をとる胸腺原基の上層部の細胞にCldが特異的に発現すること、またこの細胞を中心に髄質領域が形成されることを見出した。以上の結果は、発生初期のCld陽性細胞が、成熟胸腺におけるAire陽性細胞を含む髄質上皮細胞の前駆細胞である可能性を強く示唆している。 この仮説を証明するため、C57BL/6マウスの胎生13日からCld陽性上皮細胞を単離し、同発生期のBalb/cマウスの胸腺原基から調整したsingle cell suspensionと再集合させヌードマウスの腎被膜下に移植し異所性に胸腺の再構成を行った。H-2Kbをマーカーに用いて移植した発生初期のCld陽性細胞の分化能について検討を行ったところ、その大部分が髄質上皮細胞に分化すること、さらにこの分画中にAire陽性髄質上皮細胞に特異的に分化する細胞集団が存在することが明らかになった。以上の結果は、髄質およびAire陽性髄質上皮細胞に分化決定を受けた前駆細胞が胸腺発生初期に既に存在することを示しており、これまで明らかでなかった胸腺髄質の発生起源を同定した重要な知見であるといえる。CldはこれまでTJのバリア機能に主に関与する分子とされてきたが、このような構造的・機能的TJを有しない上皮細胞に発現するCldの機能を今後明らかにすることにより、T細胞分化における胸腺微小環境が担う役割とその形成メカニズムの解明に新たな分子基盤を与えうるものと考えられる。
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