自己寛容(self-tolerance)の成立機構に重要な役割を果たしているAIREタンパク質は、胸腺上皮細胞の核内に存在し、構造上の特徴から転写調節因子として働くと考えられている。一般に、核内転写調節因子は他のタンパク質と協調して機能を発揮するため、AIREと相互作用するタンパク質群を同定することは、AIREの機能を明らかにする上で必須であると考えられる。他方、前研究室ではAIREがユビキチン連結酵素(E3 ligase)であることを明らかにしているが、その基質タンパク質の同定には至っていない。これらの点をふまえ、本年度はAIREと相互作用するタンパク質群の探索を行った。具体的にはAIRE遺伝子を胸腺上皮細胞株へと導入し、AIREタンパク質を恒常的に発現させた後、細胞核画分を抽出し、AIREに付加したタグによる免疫沈降を行い、AIREを含むタンパク質複合体を回収した。得られたタンパク質複合体中の微量タンパク質検出のためにSDS-PAGEで分離せず、直接マススペクトロメトリー(質量分析計)にて同定した。現在、同定したAIREタンパク質複合体候補分子群の確認作業を行っており、今後AIREタンパク質複合体の組成が明らかとなった場合には、これらタンパク質の相互作用の形態や結合部位についても検討する。また、得られたAIRE相互作用タンパク質の情報を元に、AIREによって転写調節を受ける遺伝子群の探索を開始する。 以上の研究の進展により、AIREと生理的に相互作用するタンパク質が同定できれば、自己免疫疾患発症機構の解明に有力な手がかりとなるのみならず、自己寛容の成立機構の本態に迫ることができる。
|