T細胞と抗原提示細胞の接着面に観察されるTCRの集積は免疫シナプスと呼ばれ、活性化の場であると予測されていた。しかし我々は、免疫シナプスが形成される数分前に接着面一面に形成されるTCRのミクロクラスターから活性化が始まっている事を明らかにした。本研究ではTCRミクロクラスター形成に関してラフトが果たす役割を明らかにする。従来シグナル伝達の足場を作るとされてきたラフトの会合、集積に関して、ラフトは集積しないとするデータも多く出されており真意の程はわからないのが現状である。 昨年までに、HalotagでラベルしたTCRとラフトプローブを同一T細胞内に導入し、MHC分子と接着分子を含む脂質二重膜上に落としても、接着面にできるTCRクラスターの場所にラフトが集まる様子は見られない事を報告した。本年度は、抗原提示細胞とT細胞が接触しシナプスを作っている所を動画撮影する事に挑戦し成功した。この実験では接着面に対して垂直方向に観察したが、面白い事に免疫シナプス周辺でのラフトの動きはTCRと一致せず、ラフトの集積も認められなかった。この結果は、ラフトが集積して足場を作るのではない事を示す、より生理的で重要なデータであると思われる。しかし光学顕微鏡で観察できる程度の集積はなくても、もっと微小な環境での分子間相互作用が変化している可能性が残されている。そこで、分子レベルの距離を測る方法であるFRETを用いてラフトとTCRの距離を観察すべく蛍光プローブの作成及び探索を行い、FRETを起こすプローブを得るところまで進めた。また、ラフトの積極的な役割を解明するためラフト局在分子の変異体を用いての観察の準備も行った。
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