本年度は、検査データに基づくサーベイランスにより実効性のある院内感染対策の支援を行う方策を検討した。 196床の研究協力医療機関に細菌検査室データを毎月送付してもらい、その解析結果を医療機関の院内感染対策委員会の開催に合わせて還元した。また、還元情報の返却のみでは、実際の院内感染対策の実施への活用が不十分であったことから院内感染対策チーム(ICT)自身による自己評価表およびアクションプランを作成し、その送付とそれに対するコメントの返却をシステムに組み込んだ。また検査データの解析をより効率的に行うため、解析ソフトの開発をおこなった。 院内感染対策の実施状況の評価はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の分離率およびこの菌の由来(交差感染が疑われる場合と持込が疑われる場合)毎の解析によりおこなった。その結果、還元情報の解析のみではMRSAの分離率等は低下しなかったが、ICTによる自己評価及びアクションプランの作成をシステムに組み込むことによってMRSAの分離率が有意に低下した。またMRSAの由来を検討したところ、分離率の低下は病院内における交差感染の減少によるものであり、院内感染対策の改善が示唆された。 さらに、実際に分離された菌株をパルスフィールド電気泳動法によるタイピング解析を実施したところ、2系統の流行株が確認され、MRSAの分離率の低下に伴いこの流行株の分離が減少していたことも明らかとなった。 今後は解析ソフトを使用した解析を病院側で実施し、人的資源等が限られている中小規模病院における院内感染対策サーベイランスシステムの確立を検討していく。
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