研究概要 |
院内感染対策実施状況の指標としてメチシリ耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の分離状況を中心に研究を進めた。MRSAについて,薬剤感受性パターン(アンチバイオグラム)を利用した細菌検査室データの詳細な解析により,交差感染の有無や集積の予測をおこなった。本年度はデータにより探知された集積を実際に調査した結果,1病棟におけるアウトブレイクが確認され,さらに分離菌株の遺伝子解析もその所見と一致し,その有用性を確認した。 一方,データの解析で院内感染に関する警告を発したとしても,その情報が実際の対策に結びつかず,感染対策の指標としていたMRSAの分離率も低下しなかった。そのため,協力医療機関の感染対策実施者がより能動的に還元情報を利用するよう,解析結果を評価し対策を立案するよう依頼した。特にMRSAの分離数に対して,持ち込みなのか,感染対策の不備による交差感染なのかを評価することとした。その結果,1月あたりの平均MRSA分離患者数が本研究開始時12.9〜15.8人であったのが,評価と対策の立案を開始したところ平均9.7人/月と有意に減少した。 以上により,細菌検査室のデータを元にしたサーベイランスによりアウトブレイクの探知や感染対策の実施状況を評価することは可能であると考えられた。しかし感染対策の実施に重要な情報であっても,実際の感染対策結びつけるためには対策を実施する医療スタッフが結果の意義や重要性といった解釈の仕方についての教育を受ける必要があり,今後その方策に関する検討が必要と思われた。
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