乳幼児期に重度の身体的虐待やネグレクトを受けると、生育後に不安、抑うつ、統合失調症、注意欠陥/多動性障害に類似した症状を呈するという精神医学的診断報告がなされている。本年度における検討では、ストレスによる精神機能発達障害における情動行動異常の形成および発現機序を明らかにする目的で、ストレスによる精神機能発達障害モデル動物の情動行動異常の形成および発現に関わる行動学的検討を行った。さらに、幼若期における衝動的行動に関わる神経機構を明らかにする目的で、衝動性を示す動物モデルラット・幼若SHRSP/Ezoを用いて、情動制御の関与が強く示唆されているセロトニン(5-HT)作動性神経系の視点から神経薬理学的に追究した。生後14日(2wFS群)および21日(3wFS群)にそれぞれ足蹠電撃ショックストレスを負荷した幼若ラットは、その成長後、不安関連行動を評価する行動試験(高架式十字迷路試験およびSocial interaction試験)において3wFS群の異常行動が観察されたことから、この異常行動の発現にストレス負荷時期に依存した臨界期が存在することが考えられた。また、3wFS群の異常行動はストレス負荷直後から成熟期まで持続的に維持されていることが明らかとなった。今後、この情動機能に関わる行動異常について、衝動性や社会的行動との関連性について詳細に検討し、その脳内メカニズムを追究する予定である。一方、幼若SHRSPの衝動性に対しては、選択的5-HT再取込み阻害薬(SSRI)であるフルボキサミン、5-HT・ドパミン受容体拮抗作用を有する非定型抗精神病薬(SDA)であるリスペリドンおよびオランザピンの有効性が確認された。これらのことから、衝動的行動の背景には5-HT神経系の異常性が推察され、幼児期における衝動的行動の薬物療法として5-HT神経系を調節するSSRIやSDAの有用性が示された。
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