研究概要 |
本年度の検討では、乳幼児期に受けたストレスによる精神機能発達障害における情動行動異常の形成および発現機序を明らかにする目的で、発達障害モデル動物の情動行動異常の形成および発現について行動薬理学的ならびに免疫組織化学検討を行った。生後21日(3wFS群)に侵襲的ストレスを負荷した幼若ラットは、不安関連行動を評価する試験(高架式十字迷路試験およびSocial interaction試験)において、成長後に不安惹起様行動ならびに衝動的行動が観察され、この異常行動はストレス負荷後から成熟期まで持続的に発現することが明らかとなった。この衝動的行動発現の脳内機序の一つとして縫線核内のセロトニンおよびGABA含有細胞の減少が背景にあると考えられる知見を得た。さらに3wFS群に認められる異常行動は、ストレス負荷後のセロトニン再取り込み阻害薬の反復投与によって改善された。一方、ストレス負荷時に活性化すると考えられるセロトニン神経系およびカンナビノイドシステムに焦点を当て、幼若期(3週齢)に薬物(5-HT_2受容体作動薬:(±)-DOI、CB1受容体作動薬:WIN55,212-2)の反復投与を施した幼若期薬理学的ストレス負荷ラットを作製して、成長後の情動行動の変化を検討した。いずれの薬物の場合においても、高架式十字迷路試験および文脈的恐怖条件付け試験の不安関連行動を評価する両試験において、不安水準の低下が認められた。この知見からストレス負荷時に5-HT_2受容体あるいはCB1受容体の持続的で過剰な活性化が、成長後の情動応答性の発達に影響を及ぼし、異常行動として不安水準の低下を誘引したと考えられる。以上の結果から、幼若期に負荷されたストレスの種類によって成長後に発現する異常行動は異なるが、いずれの場合も幼若期のストレス負荷は正常な精神機能の発達、特に情動機能の脆弱性を誘引することが明らかとなった。
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