私たちは、細胞を破壊せず組織片をそのまま用いる組織片結合実験法(tissue segment bindingmethod)を開発しました。この方法では組織片をそのまま用いるため、受容体環境を変化させることなく、組織に存在する受容体を直接同定できます。昨年度は、この方法を用いてラットやヒトの脳および末梢組織のムスカリン受容体が同定できることを証明しました。今年度はさらにこの実験を発展させ、以下の点を明らかにしました。 1. ラットの大脳皮質と海馬は、脳の他の部位および末梢組織とは異なり、ムスカリン受容体のM1サブタイプを細胞内小胞体にも存在する。 2. 拘束ストレスを負荷すると、この細胞内M1サブタイプは特異的に消失する。 3. 細胞内M1サブタイプは老化とともに減少し、生後20ヶ月のラットでは存在しない。 4. 細胞内M1サブタイプの脳内での分布から記憶と学習との関係が示唆されたので、水迷路試験を行い、上記細胞内M1サブタイプが消失した状態では、学習能力が著しく抑制されることを明らかにした。 以上の結果などより、大脳皮質・海馬に特異的に存在する細胞内M1サブタイプは、脳高次機能と密接に関係することを明らかにした。
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