マラリア罹患のリスクは環境の変容により影響を受けるが、恒常的にマラリアが存在する地域ではヒトのマラリアへの適応が進んでいる。マラリアに感染しても発症しない耐性メカニズムについて新規の知見を得るため、ヒトの体内でマラリア耐性がどのように獲得されるのか、また集団内でどのように淘汰されているのかを明らかにするのが本研究の目的である。 不顕性マラリア感染が確認されているインドネシア・東ヌサトゥンガラに属するスンバ島の一ヶ村を対象地とした。住民410人の血液試料を用いて、マラリア抵抗性遺伝形質と考えられている遺伝形質のうち、Formazan-Ring法によりグルコース6リン酸脱水素酵素(glucose-6-phosphate dehydrogenase : G6PD)の酵素活性からG6PD欠損のスクリーニングを行い、またPCR法により東南アジア型卵形赤血球症(Southeast Asian Ovalocytosis : SAO)の責任遺伝子である赤血球バンド3遺伝子の27塩基対欠損のスクリーニングを行った結果、それぞれ7%、14%の頻度で検出された。この結果に基づき、同集団内でのマラリア抵抗性遺伝形質の伝播を検証するため、全住民(約600人)の家系調査を行い、対象者の血縁関係について詳細なデータを得た。マラリア感染と抵抗性遺伝形質との関連は認められず、またマラリア感染と親の遺伝子形質にも関連はなかった。対象集団は内婚的でリネージごとに家族集団を形成しているが、リネージ間で複雑な配偶および親子関係を築いていることがわかった。リネージ間でマラリア抵抗性遺伝形質の頻度に有意差が認められた。両親の血縁関係、結婚形態、親子関係から血縁淘汰が働いているか、検証中である。
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