インドネシア・スンバの血縁集団において、マラリア症状を有さないにもかかわらず、血中にマラリア原虫が検出される不顕性マラリアの存在がこれまでの研究から明らかになってきた。また、real-time PCR法により熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)と三日熱マラリア原虫(P.vivax)を定量した結果、2種の原虫の共感染(co-infection)が27%みつかった。興味深いことに、P.vivaxの原虫量は、共感染の場合において単感染と比べ有意に多い結果となった。2種のマラリア原虫が共感染している状態で、宿主の免疫バランスが変化していることが示唆された。また、この不顕性のマラリア感染において、原虫を体内に保持する者は保持しない者に比べ、有意に血中のサイトカインIL-10(Interleukin-10)が高濃度に検出された。マラリア発症時に高値を示すサイトカインTNF-αおよびIFN-γの上昇は不顕性マラリア感染においては認められなかった。これらの結果から、IL-10がマラリア発症の抑制に寄与している可能性が示唆された。またヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスがマラリアとの共存に重要である可能性が示唆された。 一方、同対象集団において、内婚習慣による特有の親族関係が、淘汰を受けた遺伝形質の維持および生存に寄与し得るのかについて検証するため、家系調査と平行し、再生産、出生、生存率、両親の血縁関係に関する詳細な情報収集を現地調査により遂行した。血縁が淘汰と生存に及ぼす影響について検証をおこなっていく予定である。
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