アジア開発途上国の子どもの成長パタン及び成長に関わる諸要因の解明は、その社会的・科学的意義から、公衆衛生学・生物人類学における最重要課題の一つである。途上国でも特に農村部の子どもはWHOの標準値として用いられるアメリカの子どもに比べ成長が遅く、このような子どもに対し国際標準値を適用することの妥当性は未だ議論の的である。さらに、途上国でも生活環境の良い富裕層ではアメリカの子どもと同様の成長を示すかという点についても一致した見解が得られていない。本研究は、アジア途上国において子どもの成長及びその関連要因にかんする包括的調査を行い、アジア途上国の子どもの成長を国際標準値と比較するとともに、集団の成長のバラつきに関連する環境要因を検討し、公衆衛生的な提言を行うことを目的とした。対象としたインドネシア西ジャワ州の学童は、農村部のみならず都市部においてもWHOの標準値に比し成長が遅く、4割が'成長遅滞'に相当した。成長には地域差があり、都市部のほうが農村部よりもHAZ、WAZの平均値が良好であり、特にその差は身長について顕著であった。食事調査の結果、都市部は農村部よりも鶏肉や海水魚の摂取頻度が高く、良質なタンパク質の摂取が地域差に寄与することが示された。また、農村部の学童はタンパク質、ビタミンA、カルシウムの摂取量が不足しており、これらの負荷によって成長が遅滞していると考えられた。対象とした学童の多くは、第二次性徴が開始する思春期の前の発達段階にあり、一般に環境要因の影響を受けやすい時期と考えられている。本研究結果からも、栄養素摂取が集団の成長のバラつきに有意に関連しており、このような環境要因の改善が西ジャワ農村部の子どもの成長改善に重要であることが示された。また、農村部において身長の'成長遅滞'が顕著であったことから、タンパク質摂取不足といった環境が長期間蓄積した結果だと推測される。
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