現在公表されている「全国がん罹患数推定値」は過小評価されている可能性があるが、その程度を把握するための数理モデルの構築を試みた。今回得られた評価方法は、まず登録の完全性を表す2指標「罹患死亡比」と「DCN割合」の間に非線形関係式を求める事から始まる。次に、この関係式を用いて、DCN割合が0%における罹患死亡比を未知パラメータとする統計モデルを設定し、重み付き最小2乗法を用いて、未知パラメータ(完全な登録における罹患死亡比)を推定した。この罹患死亡比に全国がん死亡数を乗じて全国罹患数を推定した。この結果と、現在報告されている数との比較から、報告値は約20%の過小評価であることが判明した。 また、がんのリスクを「生涯リスク」という分かりやすい形で表現する試みを行った。現在公表されている生涯リスクは、他死因死亡を考慮しておらず過大評価が予想されるものや、85歳以上を丸めたデータを用いて推定されたものである。今回、地域がん登録における85歳以上を丸めないデータを用い、他死因死亡を組み込んだモデルにより、生涯リスクの再推定を行った。結果、がん死亡生涯リスクは男性で約30%、女性で約20%であり、がん罹患生涯リスクは男性で約47%、女性で約34%であった。部位別には、女性では胃がんが最も高い生涯死亡・罹患リスクであり、それぞれ約3%、約5%であった。男性では、肺がんが最も高い生涯死亡リスクで約7%、胃がんが最も高い生涯罹患リスクで約10%であった。これらの結果は、他死因死亡を組み込み、85歳で高齢を丸めた推定結果と大差は無く、これまでの高齢を丸める近似方法が適当である事が判明した。
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