研究概要 |
延命治療に対する患者本人の意向と、潜在的な代諾者である親族等の重要他者が予測する意向との一致度は、海外では多くの調査研究で検討されているものの、国内ではほとんど明らかにされていない。平成20年度は、自身が重度認知症となったとする仮想シナリオの下で、(1)延命治療に関する一般中高年者の意向と、その重要他者が予測する意向の一致度、(2)意向の一致度の関連要因、の2点を明らかにすることを目的として調査を実施した.2008年2〜4月に、(A)都内A区在住の45〜74歳の住民(本人)と、(B)本人が"植物状態、重い認知症など、医療についてご自身では判断ができなくなってしまったときに、代わりに判断をされる可能性が最も高い方"(重要他者)それぞれ1,200名を対象として無記名自記式の郵送質問紙調査を実施した。(A)と(B)は別々に回収したが、IDを付して接合を可能とした。分析にはSPSS15.0を使用し、本人-重要他者間の治療意向の一致度を従属変数として、男女別に二項ロジスティック回帰分析を行った。転居等の49名を除いた1,151名のうち、有効回答数は本人501票(43.5%)、重要他者345票(30.0%)、両者の接合が可能なものは332組(28.8%)であった。(1)本人-重要他者間で意向が一致した割合は、人工呼吸器68.2%、人工透析66.0%、人工栄養64.9%であった。不一致の場合は、本人が治療を望まず、重要他者が望むというパターンがいずれの処置においても大半であった。(2)男女ともに、本人-重要他者間で話し合いを多くもっている者ほど意向の一致度は高かった。さらに、男性では、本人がより「自分の意向通りに対応してもらいたい」と思っている者ほど意向が一致する関連がみられた。同様に、主観的な健康状態が不良であるほど意向が一致する傾向にあった。一方女性では、低学歴の者ほど意向が一致する傾向がみられた。都市部在住の一般中高年者の延命治療に対する意向について、本人と重要他者の意向の一致度は概ね6〜7割であり、海外の知見と一致していた。一致度を向上させる上で、普段から意向について両者が話し合っておくことが重要だと考えられる。また女性においては、延命治療の方針を自分自身で決めたいと思っている者や高学歴の者において、本人の意向に沿わない決断が為される可能性が他の者に比べ高く、重要他者とのコミュニケーションが特に望まれる。
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