研究概要 |
2006年7月下旬から8月上旬にかけて,岡山市街地を対象にして,熱中症リスクの温熱指標であるWBGTを連続観測した.観測対象空間は,日常生活や運動時に実際関わることが多い場所でもある,緑地公園内の芝生広場,市中心部の商業街区歩道,住宅地内の小公園,住宅街区道路,小学校運動場,小学校体育館内,スポーツトラック内とした.観測期間の天候は,夏季の太平洋高気圧に覆われて晴天日が続き,最高気温も30℃を連日超えた. 日中のWBGTが最も高かったのは,上記空間のうちスポーツトラックであった.連日のように32℃を超えた.反対に日中のWBGTが最も低かったのは,市中心部の商業街区歩道と小学校体育館内であった.その値は30℃を超えることはなかった.この理由を,各空間内において日中に入射する放射量(日射・赤外放射)を放射・熱収支式から推定することによって明らかにした.その結果,スポーツトラックでは日中に入射してくる放射量が最も大きく,反対に市中心部の商業街区歩道と小学校体育館内で入射してくる放射量が最も小さいことがわかった.スポーツトラックではトラック表面から反射または放射される放射量が大きいために,全体の入射放射量が増えてしまうことがWBGTの高い値をもたらしていると考えられる.また,体育館では室内のため直達日射が入射しにくく,商業街区歩道では建物の背が高いために日陰が形成されやすいため同様に直達日射が入射しにくいことが,WBGTの低い値をもたらしていると考えられる. 一方,夜間のWBGTが最も高かったのは,市中心部の商業街区歩道と小学校体育館内であった.この2つの空間ではWBGTが25℃以上の継続時間が最も長く,熱帯夜における熱中症リスクが高いことを意味している.放射・熱収支式から推定された入射してくる夜間の放射量が商業街区歩道と小学校体育館内で最も大きく,このことが夜間のWBGTを高く維持していると考えられる.これは,商業街区歩道の場合には日中に蓄熱された建物からの赤外放射,体育館内の場合は体育館壁面からの赤外放射を受けることが原因として考えられる.
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