研究概要 |
長期的な疲労回復機会の喪失による慢性疲労の発現から進展までをとらえるために,長時間過密労働を模擬した10日間の睡眠短縮日とそれに続く3日間の回復日での循環器動態を明らかにするため実験室実験を行った。 被験者には健康で睡眠障害のない成人男性14名(平均年齢:27.9±6.0歳,範囲:20〜38歳)を選出した。実験1日目および2日目をそれぞれ,適応日と基準日として23時から7時まで8時間の睡眠をとった。その後,10日間の短縮睡眠日には1時から6時まで5時間の睡眠をとり,最後の3日間は回復日として再び23時から7時まで8時間の睡眠をとった。睡眠中は,睡眠ポリグラフにより脳波および心電図を測定した。 短縮睡眠日には,食事,睡眠,入浴時間を除いてパソコンを用いたキーボード入力による英文転写課題を行わせた。長時間過密労働を模擬するために,英文転写課題は転写の原文を一度に被験者に与えて作業進度を各自で設定させるようにし,食事以外の休憩取得は任意とした。また,被験者には定められた期間内で作業を全て終えた場合にのみ謝金を支払うという教示を与えた。回復日の覚醒中は自由時間とし,運動と睡眠以外の内容で自由に過ごしてもらった。 睡眠中の脳波と心電図の測定の結果,レム睡眠における心拍数は全被験者の平均値でみると基準日に比して短縮睡眠3日目まで徐々に増加した。しかし,短縮睡眠4日目には基準日の水準に戻り,そのまま10日目まで同水準で推移した。その後の回復日には,1日目から3日目まで心拍数は徐々に減少し,いずれの日においても基準日より低かった。また,個人ごとの変化をみると,明らかに30歳代の被験者において,レム睡眠時の心拍数が全被験者の平均値よりも実験期間を通して高く推移していた。今後は,短縮睡眠4日目以降の心拍数の減少が睡眠短縮への適応なのか,回復日の心拍数の減少が回復であるのか明らかにする。
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