研究概要 |
作業密度の増加,精神的ストレスの強化,長時間残業など長時間過密労働による慢性疲労が深刻な社会的な問題となっている。慢性疲労状態は,循環器疾患や精神疾患などの原因となり,過労死や過労自死に係る諸問題を惹起していることが報告されている。本研究では,長時間過密労働を背景とした疲労回復機会の喪失が,慢性疲労発現から進展における循環器動態にどのように影響するのか実験室実験により調べることを目的とした。 被験者は男性10名(平均年齢29.5±6.1歳)であった。睡眠は,順応・基準夜(8時間,23-7時)の後,10日間の短縮夜(5時間,1-6時),4日間の回復夜(8時間,23-7時)を配した。覚醒時はワープロによる英文転写を課し,規定量が終了しないと謝金を支払わないと教示した。測定は,睡眠時脳波を記録した。心拍変動は,睡眠ポリグラフで脳波と同時に測定した。 結果は,睡眠構築は自律神経活動が亢進するレム睡眠の平均出現率が,基準夜,短縮夜ともに約20%で,11日間同水準のまま推移した。この水準は回復夜でも変わらなかった。レム睡眠時の1分毎の心拍数の平均値は,基準夜に比して短縮夜3日目までは増大する変化を示したが,その後は5日目までに基準夜よりも減少し,10日目まで同水準で推移した。回復夜では短縮夜より心拍数が低く,経日的に減少した。個人毎にみると,年齢が高いほど全体的な心拍数の水準が高く,3例のみ短縮夜の連続に伴いレム睡眠時心拍数が増大していた。 短縮夜3日目以降のレム睡眠時心拍数の減少が適応であるのかは,3例だが経日的に心拍数が増大した例もあること,全体的に回復夜では短縮夜よりも低水準で推移したことから,覚醒時の課題遂行状況など,心拍数を変化させる要因の検証が必要であることが示された。また低水準ながら,回復夜でも4日目になって再度心拍数が増大する例が6例みられ,連続的な睡眠短縮の影響がすぐには解消しない可能性が示唆された。
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