統合失調症を有する人びとの実生活で受けた差別的体験を明らかにするために、国際的に標準化された調査票、差別とスティグマ尺度(DISC-10)を用いて半構造化面接を行った。対象は、A病院外来に通院中で、1)統合失調症の臨床診断を有する、2)面接の実施に関する書面での説明と同意を得ている、3)主治医がその患者の研究参加に同意している、以上3条件すべてを満たすもの、22名とした。DISC-10では仕事、結婚、住居、警察官ら、保健医療従事者の対応などに関して、統合失調症を持たないものと異なった対応を受けた経験について系統的に問うた。本尺度は英国で開発され、既に国際共同研究で使用されているが、わが国での実施にあたって、調査票の翻訳、逆翻訳を行い、表現や、わが国の制度、文化的文脈の中で用いられるように、精神障害を有する当事者らとのフォーカスグループを実施して、修正を加えた。 面接の結果、まず、多くのものが不利な差別的扱いを受けたことがあると答え、家族関係、安心・安全、警察、身体疾患、保険の領域での不利益な体験を報告したものが多かった。また統合失調症を理由に自ら行わなかったこととして、仕事、病気の開示を挙げるものが多かった。差別的な体験を受けたと答えたものでは、雇用上、家族関係での不利益を挙げたものが多かった。また、行動や症状が予測不能と周囲の人から見られ、症状悪化時にコミュニケーションが途絶えたことの苦悩を語るものがいた。 以上の結果から、統合失調症を理由に差別的体験を受けたものは多数みられ、特に接触時間の多い家族からの差別的体験が多いことが特徴的であった。また、疾患を開示することで他者からの拒絶、差別を予期して、自らの行動を制限する「セルフスティグマ」を示唆する表現も多数みられた。特に職場や家族の領域において、統合失調症に関する正しい知識の伝達、意識の変化をもたらす介入が今後必要であることが示唆された。
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