2005年6月から2006年5月の1年間を通して、小児呼吸器疾患患者におけるヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症の疫学調査をおこなった。インフルエンザウイルスが陰性であった呼吸器疾患患者由来検体185検体を用いてhMPVの遺伝子検査をおこなった結果、41検体(22.2%)がhMPV陽性であった。hMPVは、3-5月を中心に流行し、そのピークを示した4月では検査した検体の約50%がhMPV陽性であった。以上の結果からhMPVは、春季の小児呼吸器疾患における主要病原体の一つであることが示唆された。一方、他の呼吸器ウイルスがhMPV感染症の臨床症状に与える影響について検討をおこなうため、hMPV陽性検体についてアデノウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスについて培養細胞を用いたウイルス分離試験、または遺伝子検査をおこなった。その結果、3検体からアデノウイルスが、1検体からRSウイルスが検出された。アデノウイルスとの重感染例では、hMPV単独感染例と比較して症状に差は見られなかったが、RSウイルスとの重感染例では症状の悪化が観察され、hMPV感染症に影響を与える可能性が考えられた。しかしながら、症例数が少ないため詳細は不明である。重感染が観察されたhMPV株について解析を進めるため、Fusion (F)タンパク質をコードする領域の塩基配列を用いて進化系統樹を作製し、hMPVの遺伝グループと他の呼吸器ウイルスとの重感染について検討した。現在までの研究により、hMPVは、大きく2つの遺伝グループに分類されることが報告されている。本解析の結果、重感染例におけるhMPV株は、すべて遺伝グループ1に分類されることが判明した。しかしながら、重感染を示さなかったhMPV株の大多数も遺伝グループ1に分類されたことから、遺伝グループと重感染との関連は明らかでなく、今後の更なる検証が重要であると考えられた。簡易抗原検出法の構築については、現在、hMPV Fタンパク質を用いて、マウスモノクローナル抗体を作製中である。
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