研究課題
法医学領域での身元不明死体において、個人識別は死因究明とともに重要な鑑定事項となる。寄生生物のゲノム型と地域性との間に密接な関係があることから、我々は、そのゲノム型を身元不明死体の出身地域推定に応用するという取り組みを行っている。そこで、我々は、ヒトの三叉神経節に潜伏しているヒト単純ヘルペスウイルス1(HSV-1)に着目し、司法解剖死体より採取した三叉神経節に潜伏しているHSV-1DNAの検出を行い、さらに、ゲノム型の分布域により、身元不明死体の出身地域推定が可能であるかどうかを検討したので報告する。司法解剖死体120検体(男76、女44名)から左右三叉神経節を採取し、DNA抽出後、HSV-1 DNAの安定な領域であるRL2領域を用いてPCR増幅による検出を行ったところ、ほぼ両側性であり、検出率は約60%であり、高齢者ほど高率となり、女性は男性に比べて高率であった。さらに、VariableなDNA領域であるUL3及びUL4領域(Vl領域:666bp)を用いて、PCR増幅による検出を行ったところ、検出率は50%以上であり、RL2領域におけるPCR増幅の結果と同様の傾向を示した。このうち、身元の明らかな日本人16検体について塩基配列を決定し、世界各地で確認されたリファレンス配列を加えた近隣結合法による分子系統解析を行った。HSV-1 DNAのV1領域における分子系統樹では大きく、I、II、III型のクラスターに分類され、日本人はII及びIII型でさらに独自のクラスターを形成した。今回行ったすべての症例で出身地とゲノム型の分布域が一致した。HSV-1 DNAは、全検体の約半数から検出可能であり、法医学領域の目的用途に耐えうるものであると考えられた。また、VariableなV1領域における分子系統解析において、ゲノム型と出身地域が完全に符号することから、宿主-連鎖性進化をするウイルスであり、この方法を用いた身元不明死体の出身地域推定は可能であることが示唆された。
すべて 2006
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Journal of Medical Virology 78
ページ: 1584-1587