平成18年度は、セルシステムズ社の正常ヒト皮膚角化細胞を用いて、マスタードガスの毒性が細胞へ与える影響を遺伝子発現の面から網羅的に調べるための分子生物学的手法の開発をまず最初に行った。具体的には、蛍光色素のフルオレセインでラベルされたプライマーを用いるジーンハンター社製のRNAスペクトラグリーンキットを使用して、RI標識フリーなディファレンシャルディスプレイ(FDD)の手法の確立を試みた。その結果、コントロールとなる細胞で、再現性良く遺伝子発現プロファイルの解析が可能であることが分かった。次に実際にマスタードガスを添加した培地で細胞を処理する手法について開発を行った。通常の継代後、80%程度にコンフルエントになった状態の細胞を、100μMから1mM程度の濃度になるようにマスタードガスを希釈したCS-2.0培地に培地を交換することでマスタードガスに曝露し、30分間室温でドラフトに放置したのちにCO_2インキュベーターで5%CO_2、37℃で2時間から24時間程度培養を行い処理した。なお、マスタードガスは水分と容易に反応して加水分解を受けてしまうため、培地によるマスタードガスの希釈は培地交換の直前に行った。マスタードガスによる処理を行った細胞は培地を除去した後、冷却したPBS(-)で数回洗浄し、全RNAの抽出を行った。現在、抽出した全RNAを用いてFDDによる遺伝子発現プロファイルの変動を解析し、マスタードガスへの暴露により発現が顕著に影響を受ける遺伝子のスクリーニングを進めているところである。なお、マスタードガスの代謝物であるチオジグリコール(TDG)、チオジグリコールスルホキシド(TDGO)およびチオジグリコールスルホンのキャピラリー電気泳動(CE)を用いた分析手法も同時に開発した。その結果、細胞のマスタードガスへの曝露の程度を代謝物の測定によりモニタリングすることが可能となった。
|