現代医療においては生活習慣病などの慢性疾患への対応や、医療費削減のための予防医学の重要性が認識されてきており、西洋薬と漢方薬が併用される機会はますます多くなってきている。しかし、漢方薬と同じ天然由来成分であるグレープフルーツジュースとカルシウム拮桔抗薬間の薬物相互作用が広く知られるようになり、漢方薬と西洋薬の併用に伴う薬物相互作用も懸念されている。 近年、培養ヒト結腸上皮細胞(Caco-2細胞)を用いて、経口投与された薬物の消化管からの吸収および消化管における代謝や、薬物相互作用を予測する研究が盛んに行われている。そこで、本実験系を利用して、漢方薬がCaco-2細胞が発現する薬物代謝酵素シトクロムや薬物吸収に関わるトランスポーターの発現に与える影響についての検討を試みた。 本年度は、新たなCaco-2細胞の培養実験系の立ち上げと、それに対する漢方薬の細胞毒性を測定した。また、次年度の準備として、主なトランスポーターのmRNA発現量の定量法の開発を行った。その結果、Caco-2細胞を安定して培養・維持できるようになり、アッセイに使用するための消化管膜状に分化させることが出来るようになり、またヒト常用量の漢方薬が消化管内液で希釈された程度の濃度では細胞毒性が見られないことを確認した。また、トランスポーターであるASCT2、GLUT1、EAAT1、PEPT1のプライマーを設計してリアルタイムPCRによりmRNAを安定して定量できるようになった。 次年度は、実際に漢方薬およびそれが消化管内液に含まれる酵素で消化されたものが、実際にCaco-2細胞のトランスポーターmRNA発現に与える影響について検討する予定である。
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