微小管阻害剤であるパクリタキセルやドセタキセルに暴露された細胞において、その分裂前期の染色体凝集を遅らせるチェックポイント分子としてCHFRが同定された。E3ユビキチンリガーゼであるCHFRが、分裂期の進行および微小管阻害剤の感受性を規定する分子メカニズムを明らかにする目的で、CHFRがNFkB経路に及ぼす影響について解析を行った。まずNFkBの結合コンセンサス配列をもつレポータベクターを用いたルシフェラーゼアッセイを行ったところ、プロモータの異常メチル化によってCHFRの発現を失った大腸癌細胞株ではCHFRの強制発現により、NFkBの転写活性化が抑制された。一方、CHFRの発現を保っている癌細胞株では、CHFRによるNFkB抑制は認められなかった。またCHFRノックアウトマウスMEFを用いた場合でも、CHFRによるNFkBの転写抑制が認められた。CHFRの各ドメイン欠損変異体を用いてルシフェラーゼアッセイを行った結果、RINGドメインを欠いたCHFRもNFkBの転写抑制を示すことがわかった。以上よりCHFRはユビキチンリガーゼ活性とは別の機能によってNFkBシグナル制御に関与していることが推測された。CHFRを強制発現させた細胞株のmRNA発現を解析したところ、既知のNFkB標的遺伝子群の発現変動には一定の傾向を認めなかったが、いくつかのサイトカインの発現が変動する所見を得ており、現在解析を行っている。一方、CHFRをbaitとした酵母 2-hybrid screeningによって、CHFR結合分子としてgadd34を単離した。これはCHFRのFHAドメインと親和性をもつことが免疫沈降法により確認できた。微小管阻害剤存在下ではgadd34のmRNA発現量に変化はなかったが、CHFRと結合と連動して細胞死が誘導されることが、生細胞のタイムラプス解析により観察された。
|