本研究ではインスリン抵抗性の増大による薬剤性肝障害発症の感受性の変化とそのメカニズムについて検討を進めている。 本年度は、インスリン抵抗性モデルマウスであるKK-Ayマウス(KK-Ay)と、コントロールマウスのC57BL6(BL6)マウスにアセトアミノフェンの過剰投与を行い、両群で比較すると共にその障害メカニズムを、主に活性酸素種(ROS)の産生増強について解析した。両群にアセトアミノフェンを腹腔内投与すると、KK-AyではC57BL6と比較してより強くネクローシスおよびアポトーシスが誘導され、脂質過酸化の亢進を認めた。また、KK-Ayではアセトアミノフェン添加前から脂質過酸化が軽度亢進しており、インスリン抵抗性の存在下では定常状態ですでに酸化ストレスが発現亢進し、NASHの発症やウイルス肝炎における病態増悪に関与している可能性が示唆された。肝組織中の活性型JNKlおよび2はいずれも両種でアセトアミノフェン投与後に有意な増加を認めたが、活性型JNK2がKK-AyでBL6の2倍以上の有意な増加を認めたのに対して、活性型JNKlは両種間で差を認めなかった。BL6およびKK-Ayより単離した初代培養肝細胞に少量のt-BuOOH(20μM)を添加したところ、BL6由来の肝細胞には変化がみられなかったが、KK-Ay由来の肝細胞ではネクローシスを来した。また、KK-Ay由来の肝細胞では約1.4倍のROSの亢進が認められた。したがって、KK-Ayの肝細胞はROSの産生亢進およびROSによる刺激に対する脆弱性を有し、主にJNK2の活性化を介して肝障害の増悪を引き起こしたと考えられた。この事象は薬剤性肝障害のみならず、NASHを含めたメタボリックシンドローム関連の肝障害の発症メカニズムにも深く関与している可能性が示唆された。これらの結果の一部は平成18年の米国肝臓学会にて発表した。
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