近年、我々は、成熟脂肪細胞から多能性を有する前駆細胞(DFAT)を効率的に得る方法を確立した。本研究では、DFATが肝細胞へ分化する可能性および肝臓再生に寄与する可能性について検討している。中胚葉系である脂肪細胞が胚葉を飛び越えて内胚葉である肝細胞へと分化転換することは学術的にも非常に意義が高く、また本研究における分化転換系の確立は肝不全患者に対する肝再生治療の有効な細胞治療法となる可能性を示すことになる。 インフォームドコンセントを経て得られたヒト脂肪組織から常法に従って脂肪細胞を単離し、天井培養法を用いて脂肪細胞からDFAT(以下DFAT-H)が調整された。我々は、DFAT-Hをヒト肝癌細胞であるHepG2との共培養およびHGF、OSM、FGF4、SCF、DEX、EGF、アスコルビン酸およびウシ胎仔血清添加培地(分化誘導培地)を用いた培養により肝細胞様細胞へと分化転換させた。培養2週間後、共培養および分化誘導培地で培養されたDFAT-Hにおいて、肝細胞特異的マーカーであるアルブミンmRNAの発現が認められた。さらに抗アルブミン抗体を用いた免疫染色によりアルブミン陽性細胞が確認された。一方共培養および分化誘導培地で培養を行なわなかった細胞においてはアルブミンmRNAおよびタンパク質の発現は認められなかった。このことからDFAT-Hはアルブミン産生肝細胞へと分化転換することが示された。 現在、さらにin vivoでの肝臓への生着および分化転換について調べる目的で、ナノクリスタルで標識したDFAT-を、四塩化炭素を用いて作成した肝障害ヌードラットに投与し、ドナー細胞の様子を観察中である。
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