これまでの研究の結果、ヒトの末梢血から血管内皮前駆細胞を培養することに成功した。またこの細胞を四塩化炭素で誘導した急性肝不全モデルマウスに経脾的に細胞移植を行うことで、肝再生が促進され、生存率の改善につながることを報告してきた。この手法を臨床の現場で応用する際に問題点の一つと考えられるのが血管内皮前駆細胞の細胞数の絶対的不足である。この問題点を解消するために、数少ない血管内皮前駆細胞でも十分な肝再生作用を発揮できるように、より強力な肝再生作用をもつ血管内皮前駆細胞を作製する必要があると考えられた。そこで、その方法の一つとしてこの血管内皮前駆細胞に肝再生促進作用が示されている肝細胞増殖因子を強発現させ、より肝再生が促進できるような血管内皮前駆細胞を作製することを試みてきた。 供与して頂いたヒト型肝細胞増殖因子遺伝子をアデノウイルスベクターに導入し、ヒト型肝細胞増殖因子を強発現する血管内皮細胞の作製に成功したものの、アデノウィルスをベクターに用いた場合、約30%程度の血管内皮前駆細胞でしか遺伝子導入できず、遺伝子導入率に問題点があった。そのため、リポゾーム法などその他の遺伝子導入法を試したものの、これを上回る遺伝子導入率は得られなかった。これ以上の遺伝子導入率を向上させるのは困難と判断し、アデノウイルスでヒト型肝細胞増殖因子を強発現させた血管内皮細胞を使用することとした。 四塩化炭素で誘導した急性肝不全モデルマウスにこの血管内皮前駆細胞を経脾的に細胞移植を行った。しかし有意な生存率の改善や肝再生の促進効果は認められなかった。このモデルマウスにおいては、遺伝子導入効率が低いこと、あるいは少ない細胞数では十分な効果が期待できないことが推察された。
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