大腸癌症例において数種のmiRNAの発現の増加もしくは低下がmicroRNA array解析によって認められた。このうち大腸癌症例6例中5例でmiR-143およびmiR-145の著明な発現低下が観察された。正常臓器ではmiR-143およびmiR-145の発現量は臓器によって多寡はみられるものの、すべての臓器で発現が認められたが、癌培養細胞株では全例で著明に低下していた。ゲノムPCRにおいてmiR-143およびmiR-145をコードする領域は、すべての細胞株においてPCR産物を認めた。また大腸癌培養細胞株SW480およびDLD-1細胞において5-Aza-2'-deoxycytidine処理を行い、メチル化を解除たうえでmiR-143、miR-145の発現を調べたが変化がなかった。miR-143およびmiR-145が低発現のDLD-1細胞やSW480細胞に両miRNAのprecursor miRNAをそれぞれ導入したところ、導入した細胞では正常対照に比べて有意に増殖抑制が認められた。miR-143のprecursorを導入した細胞におけるERK5およびそのシグナル伝達下流にあるc-mycの蛋白発現を調べたところmiR-143のprecursorを導入したDLD-1細胞では対照細胞に比べ、これらの蛋白発現は低下していた。しかしながらERK5およびc-MycのmRNAレベルは対照細胞と比較しても変化が見られなかった。よってmiR-143がERK5の発現を翻訳レベルで抑制していることが明らかになり、ERK5がmiR-143の標的遺伝子であることが示された。DLD-1細胞にいくつかのアポトーシス導入試薬の投与によりアポトーシスを誘導すると、miR-143およびmiR-145の発現は時間依存的に増加した。その際にもERK5やc-Mycの発現を翻訳レベルで抑制していることが判明した。このことはmiR-143およびmiR-145が細胞死に関わっていることを強く示唆している。
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