本研究計画では、血管病態の形成に重要な血管平滑筋細胞に着目し、平滑筋細胞の形質変換の分子機構および臨床的には動脈硬化発症機構の解明を目的し、その解明された分子機構に対する介入により、新たな抗動脈硬化薬を臨床応用させる事を目的とする。そのために、平滑筋細胞の形質変換に重要な転写因子KLF5の転写ネットワークに着目し、KLF5がマクロファージの集積を惹起するS100蛋白を下流遺伝子として制御していることを見いだし、さらにS100蛋白は、動脈硬化病変で発現し、動脈硬化の形成に重要である平滑筋細胞、繊維芽細胞の細胞増殖および遊走を制御していることも見いだした。また、KLF5は肥満、腎疾患においてもS100蛋白を制御し、病態形成に関与している予備的データを得ている。すでに、S100の抑制薬もin vitroで見いだしており、S100の転写を直接抑制することを明らかにした。動脈硬化の危険因子として慢性腎疾患は重要であるが、KLF5は急性、慢性腎疾患において発現増加し、KLF5ヘテロノックアウトマウスは、腎疾患モデルにおいて、腎病変を呈しにくい表現型を示すことを明らかにし、このメカニズムとして、KLF5が腎病変進行に重要である上皮間葉変換、細胞増殖、アポトーシスに関与していることを明らかにした。解明された転写ネットワークへの介入として、KLF5転写ネットワークの抑制薬として見いだしたAm80の薬剤溶出ステントを作製し、ブタの冠動脈の動脈硬化モデルで検討し、Am80のステント内再狭窄抑制効果を明らかにした。
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