遺伝性心不全の病因ゲノムとその病態形成機構を解明するため、心筋ストレッチ反応要素における変異を特発性心筋症患者集団において検索した結果、FHL2およびオブスクリン遺伝子について、それぞれ一家系内に点変異を特定し、その機能解析の結果、変異存在下においてタイチンとの結合性が有意に低下することが明らかとなった。また別の一家系内にミオパラディン遺伝子の終止変異を同定し、この変異はミオパラディンの細胞内分布異常を引き起こし、それに伴って心筋サルコメア-Z帯整合性の異常をもたらすことが併せて明らかとなった。さらに、心筋症の原因遺伝子である核膜構成要素ラミンA/Cとエメリンに複合変異を持つ大家系を発見し、それら相互の変異が互いの蛋白発現および局在に影響を及ぼし、その結果として核膜構造の変化を引き起こしていることを証明した。また他方面からの心不全病態解明のアプローチとして、ラミンA/C変異を持つ心不全モデルマウスの心臓における遺伝子発現変化の解析を行ったところ、その発現変化がMAPキナーゼカスケード関連タンパク群の活性化と連動していることが確認され、このことからMAPキナーゼカスケードの活性化が遺伝性心不全発症と関連していることが明らかとなった。一方、心筋ストレッチ反応要素のうち特に心筋ミオシン調節軽鎖(MLC2)リン酸化制御機構に着目し、そのメカニズム解明のため、心筋ストレッチ反応増加効果を持つhHS-M21を心臓に強発現したトランスジェニックマウスの系統樹立ならびに病理学的解析を行ったところ、このマウスは心筋細胞肥大や壊死、心筋の錯綜配列および心筋間質の線維化等ヒトの心筋症と類似した病理学的変化を呈することが明らかとなった。
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