本研究では、初めて細胞間接着分子nectin-2が心筋細胞の介在板に存在し、心不全発症機序に関与していることを示した。 nectin-2 KOマウスの心臓は正常発育し、生理的条件下では正常心機能を呈する。しかし、大動脈縮窄による左室圧負荷モデルにおいて、心肥大の程度に差はなかったが、nectin-2 KOマウスでは野生型に比し著明な心収縮能の低下、肺うっ血(うっ血性心不全)、また、心筋内のびまん性線維化、心筋細胞のアポトーシスの増加などの異常が認められた。電子顕微鏡を用いた検討において、圧負荷下のnectin-2 KOマウスの心臓では、早期から介在板構造の異常(介在板の組み手構造が深くなり、mpofibrilの配列が乱れ間隙が生じる)が認められ、それはヒトの拡張型心筋症の組織に類似していた。 同モデルの心臓組織を用いたウエスタンブロッティングで、Akt、MAPK(p38MAPK、JNK、ERK)など、心不全、心肥大において重要な細胞内シグナル伝達系を検討したところ、MAPKのリン酸化はnectin-2 KOマウスにおいて術後に有意に増加しており、心臓におけるストレス増大を反映していると考えた。他の細胞間接着分子の発現は、N-cadherin、β-catenin、α-catenin、integrinβ1、desmogleinなど、adherens junctionとdesmosomeに関連する分子は手術前後で不変であった。gap junctionに存在するconnexin43はnectin-2 KOマウスの術後で減少傾向にあり、心不全期における同分子の発現に関する従来の報告と合致した。 本研究により、nectin-2が心肥大から心不全への移行に重要な分子であることが示唆された。
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