研究概要 |
細胞膜上に発現する膜蛋白や細胞外に分泌される分泌蛋白は細胞-細胞間および細胞-細胞外基質間における情報交換において極めて重要な働きをしている。血管新生においても血管内皮細胞は周囲の内皮細胞、壁細胞、血管平滑筋細胞や細胞外基質と緊密に連携して必要十分な血管新生が達成されると考えられる。私達は血管内皮細胞に発現する新規の膜蛋白、分泌蛋白を単離する目的にてシグナルシークエンストラップを行い、血管内皮細胞に高い発現を示す新規膜蛋白の単離に成功した。この遺伝子は様々なヒト血管内皮細胞に発現する一方でHeLa、hepatome、血管平滑筋細胞といった非血管内皮細胞には全く発現していなかった。この新規膜蛋白は細胞表面に発現しておりカルボキシル端が細胞内に局在することが分かった。HUVECを様々なサイトカインで刺激してこの遺伝子の発現変化を調べたところVEGF, TNF-α, TGF-β刺激によりこの遺伝子発現は有意に低下した。さらにHUVEC中のこの遺伝子の発現をsiRNAを用いてノックダウンしたところ細胞のアポトーシスが著明に抑制されることが判明した。一方でこの遺伝子をノックダウンしても血管内皮細胞の増殖および遊走能は全く変化しなかった。アポトーシスに関与するシグナルや分子を詳細に解析した結果、この遺伝子をノックダウンすると抗アポトーシス分子であるbcl-2の発現が著明に上昇することが分かった。Bcl-2の機能を抑制するとノックダウンによる抗アポトーシス効果は完全に消失した。以上より私達が発見した新規膜蛋白は血管内皮細胞におけるbcl-2の発現を調節することにより内皮細胞のアポトーシスを制御していると考えられた。血管内皮細胞のアポトーシスは血管新生において重要な働きをしているため、今後はこの膜蛋白の血管新生における機能の解析を進めていく。また当初の実験で示唆されたVEGF受容体との相互作用も詳細に解析していく予定である。
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