前年度にラット心筋梗塞モデルにおけるHigh mobility group box-1(HMGB1)の発現及びHMGB1のreceptorであるRAGE及びToll-like receptor(TLR) 2及び4の発現を確認した。前年度に引き続きHMGB1中和抗体投与群(1mg/dayを梗塞後24時間後より7日まで連日投与)とコントロール抗体投与群の比較検討を行った(n=12 rats /group)。心臓エコーや血行動態評価を施行したところ中和抗体投与群では、左室拡張末期径の増大、fractional shortening、+dp/dt、-dp/dtの低下を認め、中和抗体投与により左心機能が増悪することを明らかにした。分子生物学的検討も行い(n=6rats/ group)、中和抗体投与が梗塞部におけるtumor necrosis factor-α(TNF-α)、interleukin-1β(IL-1β)、HMGB1の発現を有意に軽減することを確認した。非梗塞部においても検討を行ったが、中和抗体投与によるこれらの炎症性サイトカイン発現への影響は認めなかった。病理学的検討も行い(n=6 rats/group)、中和抗体投与が梗塞部非薄化及び非梗塞部の肥大を来し、expansion index ([LV cavity area/total LV area]x[Non-infarcted septal thickness/scar thickness])の増大を認め、左室リモデリングを増悪させることを明らかにした。また中和抗体投与群では梗塞部へのマクロファージ(Ed1)の浸潤が低下していることを明らかにした。 HMGB1は心筋梗塞後の炎症反応を規定し、HMGB1の中和抗体が梗塞後炎症反応を抑制する一方で左室リモデリングを増悪させることを明らかにした。左室リモデリング予防に対しての炎症を標的とした治療が着目され、梗塞後創傷治癒過程の促進による左室リモデリング改善が報告されている。適切な量/投与経路によるHMGB1投与が左室リモデリング治療となる可能性が示唆される。
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