研究概要 |
我々の研究における究極のゴールは、フォリスタチンを用いた肺繊維症の治療方法の確立であり、これを実現するためには実際のヒトの病態で、アクチビン-フォリスタチン系が機能しているのかどうかを確認しなけれはならない。そのため本年度は主に臨床の検体を対象にした研究を主に行った。 まずは肺繊維症症例の病理標本を用いて、アクチビン、フォリスタチン、アクチビン受容体の発現を免疫組織化学染色にて検討した。これらの発現は以前我々が行ったラットの実験とほぼ同様の発現分布を示しており、リガンドであるアクチビンの主たる発現細胞は肺胞マクロファージであることが判明した。受容体はマクロファージや気管支上皮細胞、肺胞上皮細胞、線維芽細胞などに発現しており、マクロファージから分泌されたアクチビンが上記の細胞に作用していることが推察された。 次に我々はヒト肺胞上皮細胞の細胞株を用いて、アクチビンがこの細胞にどのような形態学的変化をもたらすのかを検討した。アクチビンを培着液に加えると、細胞はcuboidな形態からspindleに々な形態へと変化してきていた。RT-PCRや免疫細胞染色からは、上皮系のマーカーであるサイトケラチンやE-カドヘリンの発現か減少しており,一方で間葉糸のマーカーであるビメンチンやコラーゲンの発現が上昇してきていることが分かった。これは上皮-間葉系形質転換(Epithelial-Mesenchymal Transition : EMT)と呼ばれる現象で、繊維化の主役である線維芽細胞の起源が上皮細胞にある、という仮説を裏付けるものとなっている。今回の実験からアクチビンがEMTのメカニズムの一端を担っている可能性が示唆された。これはTGF-βを添加したときにみられるEMTと同様の作用であった。さらに、この系においで、フォリスタチンがEMTを抑制する効果を持つのかどうかについて、現在実験を追加している。
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