本研究では、KRAS変異を有する非小細胞肺癌にて、RNA干渉(RNAi)レトロウイルスベクターを用い、正常細胞の生存に必須な野生系KRAS活性に影響を与えず、変異系KRASのみを特異的に抑制して細胞増殖や生存を抑制するか調べ、KRAS変異が非不細胞肺癌の悪性形質の維持に必要であるか検証することを目的とした。KRAS遺伝子のコドン12変に相補的なsiRNAを産生するRNAiレトロウイルスベクターを作製し、変異型KRASを持つ4つの非小細胞肺癌細胞株において変異型KRAS発現が抑制される事を確認した.これらの細胞株にて変異型KRAS抑制が細胞増殖に与える影響をコロニーフォーメーションアッセイにより調べたところ、コロニー形成能が80〜90%抑制された。一方KRAS変異のない非小細胞肺癌の悪性形質の維持に必要である事が示された。その他の研究実績として2つの論文を報告した。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤ゲフィチニブは、EGFR遺伝子変異を有する非小細胞肺癌患者に高い感受性を示す事がレトロスペクティブな検証により報告されていることから、EGFR変異を有する進行非小細胞肺癌患者21例を対象としてゲフィチニブ効果をプロスペクティブに検証したところ、奏功率76%、無増悪生存期間中央値12.9ヶ月であり治療が有効であることを示した。また肺癌においてRAS関連遺伝子伝子であるRASSF2の発現及びプロモーター領域のメチル化の解析を行い、RASSF2発現がメチル化により抑制されていることや手術切除標本を用いた解析で、非喫煙者の非小細胞肺癌患者において有意にメチル化の頻度が高い事を報告した。
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