我々は胃酸誤嚥による急性肺傷害を念頭におき、炎症性メディエーターの産生を抑制し、抗炎症性サイトカイン産生を促進する薬物(ピリミジルピペラジン)の投与により急性肺障害を軽減することを目指し研究を開始した。これに先立ち、まずC57BL/6マウスを用いて塩酸肺傷害モデルを作成した。マウスの気管内に塩酸を投与し、その3-24時間後に気管支肺胞洗浄(BAL)を行った。その結果BAL液中に白血球が集積し、されに過剰な炎症性メディエーター産生により自己組織に傷害をきたす好中球が著しく増加することが確認された。白血球及び好中球の集積は塩酸投与12時間後に頂点となった。まだ、網羅的なサイトカインの解析により、炎症性サイトカインが肺胞中に放出されることも同時に確認した。 次に、塩酸投与の30分前にピリミジルピペラジンあるいは対照群として生理食塩液を静脈内投与して12時間後にBALを行い、ピリミジルピペラジンの白血球、好中球と、炎症性サイトカインの中でも最も重要な役割を果たすTNF-Aおよび抗炎症性サイトカインであるIL-10の産生に及ぼす影響を検討した。薬剤投与により、好中球の割合は有意に減少した(74±19%vs54±14)。統計学的有意差は認められなかったものの、総白血球数の減少傾向(11.6±7.8-10^4vs5.4±3.0-10^4cells/mL)とTNF-A濃度の減少傾向(146±127vs80±45pg/mL)及びIL-10濃度の増加傾向(79±49vs111±63pg/mL)が認められた。 引き続き、各群より肺胞マクロファージを採取し、TNF-Aの産生を比較したが、群間での有意差は認められなかった。これらの結果より、ピリミジルピペラジン投与による炎症性メディエーター産生の抑制、抗炎症性サイトカイン産生の促進の機序は解明できなかったが、ピリミジルピペラジンが炎症反応を制御することにより肺傷害を抑制する可能性が示唆された。
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