ウイルス感染は気管支喘息の急性増悪因子として高い割合を占めている。ウイルス感染による急性増悪の機序をウイルス複製時に生じる二本鎖RNAを介した自然免疫系活性化の関与と想定し、二本鎖RNAの気道内投与が抗原曝露によって生じる好酸球性気道炎症を増悪させる機序について検討した。 卵白アルブミン(OVA)感作したBNラットにOVAまたはPBS曝露16時間後に合成二本鎖RNA(polyI : C)を気道内投与すると、OVA曝露のみに比べ気管支肺胞洗浄(BAL)液中および気道周囲の好酸球数が増加した。この時点でTh2サイトカインであるIL-4、IL-13および好酸球遊走性ケモカインのRANTES、eotaxin-1は増加しなかったが、OVA曝露肺からのプロスタグランジンD_2(PGD_2)産生がpolyI:C存在下で増加した。さらに、OVA曝露は肺胞マクロファージのPGD_2合成酵素mRNA発現を誘導し、PGD_2産生を増加させること、摘出肺あるいは肺胞マクロファージからのpolyI:C刺激後のPGD_2産生がCOX-2選択的阻害剤により抑制されることから、抗原曝露によりCOX-2が誘導された肺胞マクロファージなどの細胞にpolyI:Cが作用するとPGD_2産生が誘導されると考えられた。OVA曝露肺にPGD_2を気道内投与すると濃度依存的にBAL液中好中球数が増加し、これはCRTH2/TP拮抗薬により抑制された。同様にpolyI:C気道内投与による好酸球数増加もCRTH2/TP拮抗薬により抑制されたが、TP拮抗薬、DP1拮抗薬によっては抑制されなかった。 以上のことから、喘息患者のRNAウイルス感染時の気道炎症増悪の機序として、二本鎖RNAによるCOX-2依存的PGD_2産生とPGD_2受容体CRTH2の関与が示唆されたことにより、CRTH2拮抗薬による喘息急性増悪の予防・治療効果の可能性が示唆された。
|