肺高血圧の病態生理の研究として、アンギオテンシン-II産生酵素であるキマーゼの投割について検討する事を目的に実験を行った。 人と同様のキマーゼ活性を有するという理由から、実験にはシリアハムスターを用いた。これまでハムスターで肺高血圧モデルを作成した報告はなかったが、我々は低圧低酸素チャンバー(410mmHg)内で3週間ハムスターを飼育する事で、低酸素誘発肺高血圧モデルハムスターを作成する事に成功した。次に、肺内のキマーゼ蛋白の発現の有無を確認するために、肺高血圧ハムスターとコントロールの肺組織を用いて、免疫染色とwestern blottingを行った。免疫染色では明らかなキマーゼ蛋白の増加は確認出来なかったが、肺組織のwestern blottingでは、コントロールと比較して肺高血圧ハムスターのキマーゼ蛋白が明らかに増加している事が確認出来た。 さらに、薬理学的にキマーゼ拮抗薬が肺高血圧の病態に関わっているか否かを確認するために、摘出した肺動脈リングを用いて実験を行った。摘出した肺動脈にアンギオテンシン変換酵素阻害薬、キマーゼ拮抗薬、もしくはその両者を前投与後にアンギオテンシン-Iを投与し、それぞれの肺動脈の収縮を測定した。コントロールの肺動脈では、キマーゼ拮抗薬はアンギオテンシン-Iの収縮を抑制しなかったが、肺高血圧モデルの肺動脈では、vehicleに比べてキマーゼ拮抗薬は有意にアンギオテンシン-Iの収縮を抑制した。以上より、慢性低酸崇曝露肺高血圧ハムスターにおいては、キマーゼの発現が増加しており、そのキマーゼが一部アンギオテンシン-Iによる肺動脈の収縮に関与している事が示唆された。 今後は、さらにキマーゼ阻害薬の長期投与による、肺高血圧抑制もしくは改善効果についても検討を進めていく予定である。
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