研究概要 |
本研究は、ノカルジア唯一のゲノム決定株であるN. farcinica IFM 10152の宿主細胞感染に関与する因子の同定を目的としている。本年度は、前年度までにマイクロアレイ解析で違いの認められた遺伝子群の検討、およびノカルジアの病原関連候補遺伝子破壊株の感染実験を行なった。 1.N. farcinica感染J774A. 1細胞のマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析の結果、非病原性近縁菌であるR. rhodochrous感染細胞に比べ、炎症性サイトカイン関連遺伝子が顕著に低下していたため、RT-PCR,およびELISA法により、これらの遺伝子発現および産生量を検討した結果、有意に低下していることが示された。さらに、ヒト単球由来THP-1細胞でも同様の結果が得られた。 2.ノコバクチン生合成遺伝子破壊株(ΔnbtE)のJ774A.1細胞に対する細胞障害性を検討した結果、感染24時間後、野生株感染細胞の80%以上が細胞障害を示したが、ΔnbtE株感染細胞では10%だった。さらにマウス感染実験の結果、ΔnbtE株の感染は、野生株で認められるマウス致死性および臓器病変(脾臓肥大、腎、脳)を認めなかった。遺伝子相補株は、細胞障害性およびマウス致死率の回復を示したが、野生株レベルの回復は認めなかった。これは遺伝子相補株のノコバクチン生産量が野生株の20%以下であることが原因と推察された。以上、ノコバクチンはN. farcinicaの病原性に関与していることが示された。 3.ノカルジアのグルタミンアミドトランスフェラーゼ遺伝子(ΔltsA)破壊株のJ774A.1細胞への感染実験の結果、ΔltsA株は野生株と比較し、細胞内生存率の低下、炎症性サイトカイン産生量の増加が認められた。以上より、本遺伝子産物のN. farcinicaの病原性への関与が示唆された。現在、マウス感染実験および細胞レベルの分子機構を検討中である。
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